オリジナル小説を綴っています。 拙いものですが、少しでもお話を楽しめる憩いの場になればと。

夢叶 24 第二章・わけありのリクエスト 

 次の日、早番でバイトが終わった後、田島は久しぶりにカフェに向かっていた。マスターと、夏休みの間のライブについて相談するためだ。

 カフェもいつも通り6時に閉店し、片付けも終わらせたマスターは、田島が来るのを待っていた。田島がカフェに到着した時、マスターは難しい顔をして店のコンピュータの前に座っていた。

「田島君、これ見て」

 マスターが指差したそのページは、リクエストのコーナーだった。それを見て田島は一瞬大きく目を見開いてから、さらにその画面に顔を近づけた。

「凄い数でしょ」
「マジで俺、無理なんですけど」
「どうして?」

 そこには『バンド甲子園』で田島がやっていた曲のリクエストが、もの凄い数で入っていた。

「ギターソロとか、できないですよ」
「何言ってんの。他のアーティストの凄いのコピーしてるじゃん」
「覚えていないっていう意味です。タブも音源もないし」
「その通りにやらなくても良いんじゃない? アレンジ変えれば?」

 実は以前からその曲のリクエストは来ていて、その度にマスターは田島に知らせていた。田島は毎回「その曲はできない」とはぐらかしていたけれども、今回はライブを休んでいる間に、多数のリクエストが寄せられていた。

「いやー、歌詞も忘れちゃってます」
「どうして他人の歌の歌詞は覚えていて、自分の歌の歌詞を忘れちゃうのかなあ」
「前から言ってるじゃないですか」
「でも、リクエストが凄いんだけど」

 今回も田島は「無理」と言って、全く取り合わない。田島が数年前の人気テレビ番組、『バンド甲子園』で優勝したバンドのボーカリストだったことは、カフェに来る客の間ではすでに知れ渡っていた。

 田島もマスターも隠すことはなかったし、聞かれれば「そうだ」と答えていた。けれども、当時番組の中でやっていた曲は、リクエストが来てもライブでは一切やらない。

 ライブ中に客から直接リクエストされたときも、田島はただ困ったように眉をハの字にして「すみません」と頭を下げるだけだった。

 実はマスターは、田島が「忘れた」と言うのをずっと疑っているのだけれども、田島がそれ以上のことを言わないのでその先は何も聞けないでいた。

「じゃあ、こういうのは? ライブ始めてからもう結構経つし、そろそろ田島君オリジナルの新曲っていうの」

 田島が花園に曲を作ると言っていたのをマスターは覚えていた。けれども、田島は即答で全く素っ気無く返事をする。

「全くできてないです。大学の勉強の方が忙しいんで」
「なに、急に学生っぽくなっちゃって。もう夏休みだけど」
「バイトとライブの練習でいっぱいいっぱいです。俺、そんなに器用じゃないですから」

 マスターは「仕方ない」と溜息をついて、さらにリクエストをチェックし始めた。少ししてから、あるリクエストに目が留まり、再び田島に声をかけた。

「田島君、ジャズが来てる」

 今までも色々なリクエストが来て、大概のものには答えていたのだけれども、ジャズというのは初めてだ。

「知ってる? この曲?」
「んー、題名だけじゃ・・・しかも全部英語?」
「このリクエスト、何かわけありだよ」 

 それは女性三人の連名で来ていて、三曲のリクエストと長いメッセージが数回に分けられて送られていた。

『私たちから父への誕生日プレゼントとして、この曲をリクエストさせてください』

 そう始まる長いメッセージの内容は、次のようなものだった。

 この女性三人は姉妹で、何年も鬱病を患っている父親がいる。父親が鬱病になった原因は母親がガンで亡くなったことだった。

 仕事が忙しくて母親の体調が崩れていたことに気づかず、労わってやれなかったことを酷く後悔して、その結果、鬱病になってしまったのだという。

 以前の父親は、ジャズが大好きで、自身もサックスを吹いていた。母親もジャズピアノを弾くのが上手な人だった。

 姉妹はそんな両親の影響を受け、それぞれに楽器を演奏する。母親の生前は、親戚を招待してファミリー・コンサート開くほどに仲の良い家族だったという。

 田島に父親の好きだったジャズを演奏してもらい、少しでも元気になって欲しいという願いの込められたリクエスト。

「俺、ジャズだろうが、何だろうが、やりますよ」
「さっきと言う事、ちょっと違うなあ」

 田島は優しい目をして、姉妹から来たリクエストのメッセージを何度も読み返した。マスターは、このジャズ・ナイトのリクエストを八月四週目のこの父親の誕生日のある週に合わせた。

 その操作がすむとマスターは眉間を寄せ、真剣な悩み事を打ち明ける相談人のように声を下げた。

「とりあえず、今週はどうする?」

 今週とは、四日後のことだった。その現実を知らされた田島は「え?」と首をかしげた格好でマスターの顔を凝視したまま固まった。

「もうこれ以上、お客さん待ってくれないからさ、じゃ、よろしくね」

 田島の睡眠時間を削り、深夜にギターの練習をする日々が再び始まった。



にほんブログ村 小説ブログへ
にほんブログ村   ワンクリックの応援ありがとうございます。 Thanks in advance!

人気ブログランキングへ  Thanks again for the click!




 キターッ! わけありリクエスト。練習、頑張ってね^^


 『夢叶』に、ご意見、ご感想、ご助言等いただけると嬉しいです。

 読んでいただき、ありがとうございます。皆様の一日が平和でありますように。

 Have a nice day!
関連記事
スポンサーサイト

Comment

Name - 西幻響子  

Title - No title

田島くん、いよいよ人気出てきましたね。
リクエストがたくさん♪
でも「バンド甲子園」のころの曲はあまりやりたくないみたい…
やっぱり瞬くんのことがあるからでしょうか。。。
2011.10.10 Mon 14:02
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - 西幻響子さん

コメントありがとうございます。

ありがたいことにリクエストが・・・
って、マネージャーやってませんから(笑)

昔のは、やれないのか、やらないのか、
やりたくないのか、いつかはやるのか・・・?
本人が語らないので何とも・・・

これからも見てやってくださいね^^
2011.10.10 Mon 19:02
Edit | Reply |  

Name - lime  

Title - No title

なかなか、頑固なところがありますね、田島君。
でも、自分の意思を曲げないところが、なんだかすごい。
花園君にも、本心をすべて語っていないんですね。
ストイックなのかな?
はやく、心の中を見せてほしいです。

この訳ありリクエスト。
田島君、どうする?
2011.10.10 Mon 19:59
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - limeさん

コメントありがとうございます。

物事を何でも素早くてきぱきとこなす徹さんと比べて、
田島は不器用で、スローで、じれったい奴、なのかも。。。

田島は徹さんに本心を語っていますが、いつも小出しなので、
そこから真意を引き出すのに苦労しています(徹さんが)

ジャズ気合入りますよ。本人そう言ってるんで(あっちで)
そこはストイックになるでしょう。
練習の成果を見てやってくださいね^^
2011.10.10 Mon 22:39
Edit | Reply |  

Name - 秋沙   

Title - No title

追いついた~~!

くぅ~~~~~っっ田島の才能がうらやましすぐる・・・(ToT)

キムタク風に赤とんぼだと~~~?(そこ?)
あ、そういえば私も昔、松田聖子風に中島みゆきの曲とかカラオケでやってた(笑)。

わけありでジャズですか・・・
いきなりジャズ・・・できちゃうのか?田島だったら。

それにしても、かたくななまでに昔のオリジナルはやらないんですね。
でも、ちょっとその気持ち、わかるなぁ・・・。

どうなっていくのかな、これから。
ケンドリくんも、このままって事はなさそうだし(^^)
楽しみにしてます~~~!

あ!それから、どうでもいい事だけど、私も東横沿線在住~(^^)
リアルにカフェのある辺りの街の風景が想像できちゃって、親近感~(^^)
2011.10.11 Tue 00:44
Edit | Reply |  

Name - 秋沙   

Title - No title

あ、書き忘れました・・・

けいさん、私のブログにリンクを貼らせていただいてもよろしいですか~?
2011.10.11 Tue 00:47
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - 秋沙さん

ありがとうございます!

こちらこそよろしくお願いします!

それから、前後賞の方も、どうですかね^^

(返信こっち先ですいません・・・)
2011.10.11 Tue 01:01
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - 秋沙さん

ここまでお読みくださり、ありがとうございます^^

~~(波)をたくさんいただいたお礼に、
田島には松田聖子でも中島みゆきでもなんでもやってもらいましょう。

ジャズが来ようが、演歌が来ようが、わけあり物はやらせますよ。
って、マネージャーじゃないですから・・・

昔のオリジナルは・・・
わかってくださるのが嬉しいです^^

ケンドリサク(カッコ本名)のことを気にかけてくださって嬉しいです。
サクちゃんはねー・・・実はねー・・・
(何かあんの? つづく・・・)

秋沙さんは東横沿線在住さんでしたか。 
どうでも良くないです。それって重要じゃないですか!
秋沙さんが見ている街の風景が欲しいかも・・・
そっと教えてください^^
2011.10.11 Tue 08:29
Edit | Reply |  

Name - 秋沙   

Title - No title

ん?
てっきりけいさんも東横沿線在住、もしくは神奈川大学出身者かと・・・


リンク、貼らせて頂きました♪
今後共よろしくお願いいたします(^^)

えっと前後賞については・・・(^^;)

本当は、ポールさんへのショートショートにまとめて前後賞も盛り込んじゃおうかと思ったんですが、企画力不足でしたm(_ _)m

えっと、本編のお話も書かなくちゃなので、またの機会にあらためさせてくださいませ(^^;)
2011.10.11 Tue 18:02
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - 秋沙さん

私は相鉄線沿線の出身で、大学は東京大学、ん?
東京 にある 大学で、横浜から通っていました^^

渋谷でバイトをしていたので、東横線はそこでつながるのです。
神奈川大学は実は行った事は無く、あの駅にも降りたことは無いんですよ、実はっ!
お話は全くの妄想です。モデルにはもってこいでした^^

ハマっこのローカルなお話ですいません。。。

これからもよろしくお願いしますね^^
2011.10.11 Tue 18:53
Edit | Reply |  

Name - 秋沙   

Title - No title

ついついローカルネタは盛り上がってしまう・・・
何度もごめんなさい(^^;)

そうですか相鉄線ですか!

実は私、相鉄沿線でバイトしてたことがあるんです。
そこでダンナと出会いまして・・・(笑)
ダンナは相鉄沿線の大学で、そのへんに住んでましたよ。
うわ~~~~ニアミスしてますね。

神奈川大学のあたり、私もあまり行かないんですが、いかにも学生街という感じで、お手頃値段の定食屋さんとか洋食屋さんとか居酒屋とかがたくさんありましたよ(^^)

きっと田島が歌っているのも、あのへんのどこかのお店なのね~と想像したら楽しくなっちゃった♪
2011.10.11 Tue 21:26
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - 秋沙さん

いえいえ、ローカルネタで何度も盛り上がりましょう!

相鉄沿線のバイトでダンナさまと出会ってラブラブですとぉ~!!
(ここ、今日のポイントっす)
何てニアミス。あやかりたい(笑)

いやー、モデルの街に取材にでも行かなくてはいけないですかね?
妄想だけに頼るよりも良い事が(おいしい事も)ありそうですね。

田島が歌っているのは大学寄りの、あのへんのどこかのお店なのです。
きっと♪
2011.10.11 Tue 22:51
Edit | Reply |  

Name - ansheen  

Title - No title

こんにちは。
はじめまして。
先ほどは、当方のブログの方へお立ち寄りいただき
ありがとうございました。

神奈川にお住まいですか?
私も昨年まで横浜に住んでおりました。
神奈川大学の近辺は
おいしい定食屋さん、いっぱいありますね。
田島君の今後を楽しみに、また遊びにまいります。
どうぞ宜しくです。
2011.10.14 Fri 04:23
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - ansheenさん

コメントありがとうございます。

こちらにもお立ち寄りいただきありがとうございました。

私も横浜の出身です。
神奈川大学へは近辺にも実は行った事がなく、
お話は勝手にモデルにさせていただいちゃった妄想なので、
イメージを壊してしまっていないか心配しているところです(汗)

また田島の様子をチェックしにいらしてくださいね。
私もansheenさんのところにまた遊びに行かせてください。

こちらこそどうぞ宜しくです^^
2011.10.14 Fri 08:29
Edit | Reply |  

Name - fate  

Title - 深夜に練習なんて…

夜に弱いfateは、なんや、田島くんの体調が心配です。
それに、このジャズのリクエスト!
くぅ~っ、切ないっ
こういう身の上話、fateは弱い!
なんか、今は大学生が大学生を満喫しつつ、夢に向かって健全に進んでいる! という王道! ですな。
健全な世界に飢えているfateにはすごく良い刺激でした。
普通のことを描くのって本当は一番難しい。
だけど、奇想天外でない日常の中に、本当は心に触れる宝石が潜んでいて、誰にでもある清い部分に触れる琴線に響くものがある。
そういう世界をいつも見事に描いている作者さまに敬意を表します。
こちらに伺う時間はとても良いエネルギーをいただいている気がして嬉しいです。
また、お邪魔させていただきます(^^)

2011.11.06 Sun 19:38
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - Re: 深夜に練習なんて…

fateさん、コメントありがとうございます。

田島は練習が好きなんで、大丈夫です^^
わけありリクエストにやる気満々です。

お話に小細工できないんで、そのまんま王道行きます(笑)
とりあえず、テーマは夢見る大学生・・・
いや、キャラが田島と徹さんなんで、乙女チックには行かないのですが(汗)

普通に誰もが持っている共通の思い、みたいのが描けたらな、
なんて思っているのですが・・・

難しいですね。まだまだ修行が足りんです。
fateさんの琴線に触れられるよう、頑張ります。

またいらしてくださいね^^
2011.11.06 Sun 21:13
Edit | Reply |  

Name - ヒロハル  

Title - No title

田島、すげえじゃん!
夢配達人だな。
2011.12.02 Fri 13:26
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - ヒロハルさん

ショートでシャープなナイスコメントありがとうございます。(ルー語化? なにそれ・・・汗)

> 夢配達人だな。

良いですね、これ。

アルバイトでこれやりたい。。。
2011.12.03 Sat 10:25
Edit | Reply |  

Name - LandM  

Title - No title

リクエストがたくさんというのも考えモノですね。
色々戸惑うというか。
なんというか。

人気を持たれるのは良いことだと思いますよ。
(*^^)v
2016.03.26 Sat 12:19
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - LandMさん

コメントありがとうございます。

リクエストがたくさん来ること自体はありがたいのですが・・・
あの人は今、状態になりそうな気配?
けど人の前に立つと人を寄せてしまうという(-_-;)
ちょっと面倒な奴です(?)
2016.03.26 Sat 17:19
Edit | Reply |  

Add your comment