オリジナル小説を綴っています。 拙いものですが、少しでもお話を楽しめる憩いの場になればと。

夢叶 26 第二章・ジャズライブ(2) 

「次の曲は美紀さんから、お父様への誕生日リクエストです」

 その曲はジャズの中でも、誰もが知っている有名なスタンダード・ナンバーだった。客の手拍子で大きく盛り上がる。

 マスターは、田島が姉妹の名まえでリクエスト曲を紹介する度に、カウンター前のテーブル席に目を向けた。

 リクエスト二曲目のとき、姉妹の父親は目を大きく開き、田島をまっすぐに見つめた。それに気づいた姉妹の一人が、田島を指差してしきりに何かを話しかける。

 父親の隣に座っていたもう一人は、力なくテーブルの上に置かれていた父親の手に触れて、リズムを伝えていた。残りの一人は、田島の演奏に合わせて笑顔で一緒に歌っているようだった。

 その白髪の男性は、田島に視線を向けること以外に大きな変化はない。けれども、先ほどとは少し違うその反応に、マスターは、もしかしたら何かが起こるかもしれないと期待を抱き始めた。

「リクエストありがとうございます。ジャズって良いですね。俺、今まで知りませんでした」

 曲が終わってから、再び田島が話し出す。

「高校時代に音楽をやっていたときは、ジャズなんてやったことありませんでした。だから今日は俺自身、新ジャンルのジャズをすごく楽しんでいます」

 普段のライブでは、田島はあまり話をしない。してもせいぜい曲の紹介をする程度で、途中でMCを入れるのは珍しいことだった。

「俺は、その高校時代に大きな夢を持っていました。でも、その夢は大切な友人を失ったのと同時に、叶わずに終わりました」

 カウンターにいた花園は驚いて顔を上げ、田島に目を向けた。

「そいつは俺の親友で・・・瞬っていうんですけど・・・瞬と俺はずっと一緒に同じ夢を見ていました。でも、突然の事故で亡くなりました」

 花園の洗い物をする手が止まった。洗っている途中の皿の縁がゆっくりと下がり、流しの底に触れる。

「事故があった時、俺は瞬のそばにいました」

 どうして田島はその話をここで始めたのか、何が言いたいのか。その真意を理解するために、花園は耳を傾けずにはいられなかった。

「しーっ。静かに」

 マスターがさり気なく花園の横に来る。洗っていた皿と泡のついたスポンジを握ったままの花園が、遠目に田島を見据えてつっ立っていたからだ。

 シャーッという音をさせて水が出しっ放しになっていた水道を止めると、マスターは花園にタオルを渡した。

「横たわった瞬のそばで俺は、目の前で弱っていく瞬をただ見ていることしかできませんでした」

 ひびの入ったガラスの入れ物から水が漏れ出すように、田島は少しずつ淡々と語る。漏れた水がポタポタと床に落ちる音が聞こえるのではないかというくらいにその場が静かになっていた。

「瞬を失った事が高校生の俺にはすごくショックでした。つらくて、つらくて、本当につらくて。そのとき、瞬と一緒に見ていた夢が終わったとすべてをあきらめました」

 花園は、田島の語る一言一言を逃すまいと、聞くことに神経を集中させる。田島が、普段は見せない心の中を、この公の場にさらけ出そうとしていたからだ。

「瞬は本当はバンドでデビューするより、大学に行きたがっていたんです。だから、俺は瞬の遺志を継いで大学に入りました。バンドのことは忘れて普通の大学生になりました」

 田島は「ふぅー」と一息ついてから、マスターと花園のいるカウンターのほうへちらりと目を向けた。

「大学で新しい友達ができました。そいつは夢を持っていて、俺にその夢の話をしてくれました。そいつの話を聞いていたら、俺も思い出したんです。高校の時に瞬が俺に話してくれたことを、それは俺が見ていた夢と同じだったことを・・・」

 マスターが、無言で花園の肩に手を置いた。花園は自分のことを語る田島を見つめ、心臓の鼓動が大きくなるのを感じながらじっと話を聞いていた。

「でも俺は迷っていました。昔のことを思い出しても、瞬のことを引きずっていて、ギターも高校卒業以来ずっと弾けないでいたんです。・・・これは瞬のギターなんです。形見です。」

 田島はギターに視線を落として、ピックガードのところを軽くトントンと叩いた。

「始めは瞬のためにもやらなきゃ、って思ったんですけど、それじゃ、このギターを弾けるようにはなりませんでした。指は動かないし、弦も切っちゃっうしで、全然ダメでした」

 今は当たり前のようにライブでギターを弾く田島に、少し前までそんな弾けない時期があったなんて、マスターには想像できなかった。そして、そんな時期の田島のことを知っているだろう、花園にちらりと視線を向けた。

「色々考えすぎて何もできなかった時、瞬のためにじゃなくて、自分自身のためにやれと、言ってくれた友人がいました」



にほんブログ村 小説ブログへ
にほんブログ村   ワンクリックの応援ありがとうございます。 Thanks in advance!

人気ブログランキングへ  Thanks again for the click!




 田島のしゃべりに徹さんドッキリ・・・
 ちょい長くなったんで、いったん切ります。 m(..)m …


 『夢叶』に、ご意見、ご感想、ご助言等いただけると嬉しいです。

 読んでいただき、ありがとうございます。皆様の一日が平和でありますように。

 Have a nice day!
関連記事
スポンサーサイト

Comment

Name - 西幻響子  

Title - No title

田島くん、なにか心境の変化があったんでしょうか。
ここで瞬くんとの思い出を告白することで、なにかがふっきれるといいんですけど。。。

そうか、瞬くんと田島くんは同じ夢をみていたのか…。
でも瞬くんは亡くなってしまって…。とてもせつないですね。
2011.10.18 Tue 15:09
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - 西幻響子さん

コメントありがとうございます。

心境の変化があったんですかね。
ここで何を伝えたいのでしょうか。
話を聞いてやってください。。。

田島と瞬は二人三脚で同じゴールを見ていたのに、
繋がっていた紐が切れてしまいました。

徹さん、何とかしてやって・・・
2011.10.18 Tue 19:04
Edit | Reply |  

Name - lime  

Title - No title

花園君のドキドキが伝わってきます。
なんか、その場にいるような緊迫感があります。
普段、そんなことを語らない田島が、ステージの上で初めて「その時の気持ち」を語るんですからね。
ドラマチックで、吹込まれます。
このあともうちょっと、田島は心の中身を語ってくれるんでしょうか^^
2011.10.18 Tue 19:51
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - limeさん

コメントありがとうございます。

徹さんはもう、心臓バクバクです。
フォローするマスターはさすが大人です。

limeさん、もうカフェの客席にいますよ^^
今夜はジャズです。

ドラマチックなんて、そんな褒め言葉に一喜しちゃいます♪

もうちょい、田島の語りにお付き合いください。。。
2011.10.18 Tue 21:46
Edit | Reply |  

Name - 秋沙   

Title - No title

うわ~お。
田島君、そうやって語ることができるところまでになったのね。
これは・・・すごいことだわ。


それにしても、三姉妹に連れられてきたお父さんが気になる・・・。
この、田島君の語りは、お父さんの心に届いていくのかなぁ。
2011.10.18 Tue 21:57
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - 秋沙さん

コメントありがとうございます。

田島は・・・やっとここまで成長しました(笑)
スローなやつです。

田島の語りが、お父さんに届くと良いなぁ、
と、マスターが思っている、かも・・・(?)

お父さんとの絡みがポイントです。
田島の腕を信じてやってください。。。
2011.10.18 Tue 22:30
Edit | Reply |  

Name - ansheen  

Title - No title

うーん、同級生が死んじゃうのって、つらいことですね。
私も2人程、亡くしています。ひとりは母親になって赤ちゃんがお腹の中で育つのと一緒に、癌細胞を育てちゃった友達。
ひとりは、留学先で交通事故にあって死んだ友達。両者とも配偶者と赤ちゃんを残して死んでいきました。
でも、赤ちゃんが残ったことで、彼らが生きていた証があると言った親御さんの言葉が未だに忘れられません。
人間って、何かを刻んで去っていくんでしょうね。

あ、そうそう!リンクさせて頂きました!
今後とも、宜しくです!!!
2011.10.18 Tue 22:37
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - ansheenさん

コメントありがとうございます。

ansheenさんの貴重なご経験を教えてくださり、ありがとうございます。
つらいですね。でも時は動いていくんですね。
去っていくときのために今を刻んで生きていけたらなんて思います。。。

リンクありがとうございます!
こちらこそ宜しくです^^
2011.10.19 Wed 07:00
Edit | Reply |  

Name - あかね  

Title - No title

語るのですねー。
田島くん、このあと泣いちゃったりするのでしょうか。

お父さんの趣味はジャズ、いいですね。
私はディキシーランドジャズが好きなのですけど、それにしたってあまり知らなくて。

大人はジャズかな……なんて思って、もっと聴いてみたいのですけどね。
ジャズにしたって昔は不良の音楽だったわけですし、ロックがちょっとすたれてきたら、年寄りの音楽だといわれるようになるのでしょうか。

田島くんは多彩なジャンルの音楽がやれて、多才なのですね。シャレでした、失礼しました。
2012.12.01 Sat 10:53
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - あかねさん

コメントありがとうございます。

はい、ちょい語ります。
田島は泣きませんが・・・おっと、ネタバレはここまで(^^;)

ディキシーランド・ジャズはノリが良くて楽しいですよね。
私はジャズはピアノが好きです。もちろん、弾けないので聴く方です^^
最近のは・・・それなりに・・・(イミフ --;)

> 田島くんは多彩なジャンルの音楽がやれて、多才なのですね。シャレでした、失礼しました。

あはは。うけました^^
田島は基本、何でも好きなのです。そして、たくさん練習もします。
2012.12.01 Sat 21:05
Edit | Reply |  

Name - LandM  

Title - No title

独白することで乗り越えることができる。
・・・というのはあるでしょうね。
何にしてもため込むことは止めた方がいいということです。
受け止めて、それを発して、前に進むことが大切ですからね。
2016.04.02 Sat 15:57
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - LandMさん

コメントありがとうございます。

そうですね。
話す効果って、いろいろあって、大事ですよね。
ここで放ってまた一歩進めると良いなあと思って書きました。

ちなみに、これを描いたとき、独白、と言う単語、知りませんでした。
(↑ド素人(><))
2016.04.02 Sat 21:32
Edit | Reply |  

Add your comment