オリジナル小説を綴っています。 拙いものですが、少しでもお話を楽しめる憩いの場になればと。

夢叶 27 第二章・ジャズライブ(3) 

 花園は変わらず、体を強張らせて田島を凝視している。マスターはその緊張をほぐすように、花園の肩に置いていた手を動かして軽くさすった。

「そいつは俺に、頭の中で見ているものを、見ている通りにやれと言いました。俺が頭の中で見ていたものが、そいつにも見えているんじゃないかと思って、びっくりしました」

 花園は持っていたタオルをぎゅっと握り、その手が震えそうになるのを必死に押さえた。

「今、俺がギターを弾けているのは、一歩を踏み出せと背中を押してくれたその友人のおかげなんです。そいつは・・・あそこにいる奴なんですけど・・・」

 田島がそう言って、はっきりと指差した方向に花園はいた。急に客からの視線を浴びることとなってしまい、花園は思わず焦る。持っていたタオルで顔を隠し、マスターの背中に隠れるようにして後ろの壁のほうに振り向いた。

「おい、隠れるなよっ」

 花園は客の注目から逃れるというよりも、涙ぐんでしまった目を誰にも見せないようにするために、持っていたタオルで顔を覆った。田島は笑って、カウンターの方を向いたまま続けた。

「それから、カフェのマスター。マスターがここでライブをするのをオファーしてくれなかったら、今の俺はここにはいません。サンキュー、マスター! 感謝してますっ!」

 マスターは、いつもの笑顔でカウンターから田島に手を振った。

「瞬の事があってから音楽をやめていたんですけど、また始めて本当に良かったです。ここでこうしてライブができて、大学の仲間やたくさんの人に応援してもらって、俺は本当に幸せ者です」

 カウンター越しから目を細めて田島を見守っていたマスターは、ライブをやって欲しいと最初に田島に声をかけたときのことを思い出していた。

 その時は、何か不安気な表情をしていた田島と、今目の前で堂々とライブ演奏をしている田島とが、全くの別人に見える。

 ほんの数ヶ月のことなのに、この若者は大きく成長し、変わった。マスターは、まだまだこの先も何か凄いことが起こるような予感がしてならなかった。

「また音楽を始めたおかげで、今日やっているジャズっていう、今までやったことのないジャンルをやらせてもらえる機会もできましたし、今日皆さんとも出会える事ができました」

 田島は再び、大きく深呼吸をした。

「今の俺には新しい夢があります。それはきっと叶うと信じています。今日のライブに来てくださって、ありがとうございます。最後まで楽しんでください」

 客からの拍手と声援がしばらく鳴り止まなかった。それが収まるまで田島は少し照れたように笑っていた。

「ちょっと、しゃべりすぎましたね」

 少し場が収まったところで、田島はギターを抱えなおした。準備運動をするように手首を回し、指を宙で動かす。

 ピックをつまんで軽快に弾き始めたナンバーは、スウィング・ジャズだった。それからの後半は、今までのしっとりした雰囲気とはまるで反対の、時にファンキーで明るい曲が続いた。

 田島は、弾きながら体を揺らしてリズムを取る。客もそのそのノリに合わせて手拍子を送り、ライブはそれまで以上に盛り上がった。

 花園もマスターも、田島のスウィングに合わせて調子良く仕事をこなす。ふとマスターは、思い出したようにカウンター前のテーブル席に目をやった。そして、そこだけは、他と全く様子が違っていることに気づく。

 田島にジャズのリクエストをしたその三姉妹のテーブルでは、姉妹の父親が水の入ったグラスを倒したらしく、父親の服をティッシュで拭いたり、テーブルの上の皿を動かしたりして、三人とも慌てていた。

 よく見ると、それまで田島のことをじっと見つめる以外、これといった表情の変化を見せなかったその男性が、涙を流して泣いていた。

 マスターはすぐに盆と濡れタオルを持って、そのテーブルに急いだ。

「すみません、気がつかなくて。大丈夫ですか?」

 倒れたグラスは、割れていなかった。マスターは、グラスからこぼれてテーブルの端に寄せられていた氷を拾い、皿やグラスを片付けて盆に乗せ、テーブルを拭く。

 手に持つ盆を一度引き上げてから、マスターは新しい水とおしぼりを持って戻ってきた。

「どうぞ」

 まだ目を潤ませる男性に、マスターは水の入ったグラスを差し出した。

「ありがとう」

 男性は、はっきりした口調で答え、顔を上げた。その視線がまっすぐマスターに向けられる。マスターもその視線に合わせて微笑んだ。

「おしぼりも、どうぞ」
「ありがとう」

 マスターから渡されたおしぼりを手に、男性もマスターに微笑みを返すと、目元をぬぐった。

 ほんの少しのやり取りではあったけれども、この二人の会話を見ていた姉妹が、三人ともただ呆気に取られたようにマスターのことを見上げていた。



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田島・・・
徹さん・・・
お父さん・・・
みんなのお世話でマスター大変・・・?


『夢叶』に、ご意見、ご感想、ご助言等いただけると嬉しいです。

読んでいただき、ありがとうございます。皆様の一日が平和でありますように。

Have a nice day!
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Comment

Name - lime  

Title - 変化!

しみじみと、いい場面ですね~~(*^_^*)

素直に心の底からの感謝をステージの上で言葉にする田島と、
それにすっかり照れて、ドギマギしてしまってる花園くんと、二人を見守るマスター。
それを感じる観客。

マスターはそして、あの姉妹と父親にも気配りをしてるから、本当に忙しいですね。

それにしても・・・あのテーブル席、反応がありましたね。
父親の心を、何かが動かしたのかe-267
2011.10.22 Sat 12:30
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - Re: 変化!

limeさん、コメントありがとうございます。

田島にしみじみと語ってもらいましたよ。
徹さんをきっちりよいしょして、マスターのことも。

マスター、めっちゃ良い人です。
次回、お父さんとマスターがちょい絡みます。

マスターも期待する何かが始まるのかどうか・・・
一緒にに見守ってあげてください。。。
2011.10.22 Sat 14:45
Edit | Reply |  

Name - 西幻響子  

Title - No title

ほんと、マスター忙しそうですね(笑) でもいい人だ~
花園君、照れちゃって。でも涙ぐんでしまう気持ち、わかります。

田島君、成長したか~。
それも花園くんとマスターのおかげ。。。
いいかんじです ^^

次回、マスターと父親のからみが楽しみです。
あたたかい気持ちをとりもどせたらいいな~
2011.10.22 Sat 15:51
Edit | Reply |  

Name - 秋沙   

Title - No title

大変申し訳ないんですが、田島のMCよりも、三姉妹のお父さんが気になっちゃってしょうがない秋沙です(^^;)

なんだろうなぁ、自分が音楽をやるせいか、MCのしゃべりよりも音楽そのもので人間の心を動かして欲しいという願望なのかしら。

お父さんの心に、ノリのいいスイングジャズが響いたのかな。
どうなるんだろう。楽しみ。
2011.10.22 Sat 18:37
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - 西幻響子さん

コメントありがとうございます。

マスターもできる人です。カフェに置いとくのがもったいない。
いや、みんなのためにカフェにいてもらわないと。。。

徹さんは田島の成長に大いに貢献しました。
二人で飲んで明かした晩のことを忘れないでしょう。
良いねぇ~、友情って・・・

さて、次回はお父さんです。

>あたたかい気持ちをとりもどせたらいいな~

ホントです。マスターともどもそれを願います。。。
2011.10.22 Sat 18:48
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - 秋沙さん

コメントありがとうございます。

そうなんですっ! お父さんの為のライブですからこれは。
それを気にかけていただいてありがとうございます。

田島は気合入っていますよ。みっちり練習もしてきました。

> 音楽そのもので人間の心を動かして欲しいという願望なのかしら。

そう願います。マスターが特に(笑)
それは、田島の腕次第・・・

ライブはまだ続きます。
お父さんの心に、響きますように。。。
2011.10.22 Sat 19:16
Edit | Reply |  

Name - ansheen  

Title - No title

ん~、いいですね。
マスター、いい人。いい人。
こんなマスターのいる店に行ってみたいです
2011.10.22 Sat 21:02
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - ansheenさん

コメントありがとうございます。

いい感じですかね。どもどもです。

マスターは大人です。
そこらの若いもんとは比べ物になりません。

> こんなマスターのいる店に行ってみたいです

私もです。徹さんのように、入り浸ってしまうでしょう^^
2011.10.22 Sat 22:04
Edit | Reply |  

Name - fate  

Title - なんで、何に泣いたのか分からないけど、

ここまで拝読させていただきながら、ティッシュ2枚使いました(^^;
恐らくfateは感動とか笑いとか怒りとか…感情のバロメーターが一般の方とは違うようです。
というか、感動的でした、本当に!
まさに王道! これがなくちゃです。
歌を忘れたカナリア。
言葉を失った少女。
そういうものに触れる何か、って、fateはいつでもどこでも探しているのかも知れません。

友情。
そして、ヒトの掛け値ない優しさと愛。
そういう部分に触れると、生きてて良かったと思える。
fateは割と自然の風景とかに‘恋’して、焦がれて、狂いそうになって、作品に取り込んでようやく落ち着く…みたいな部分があるので、きっとものすごく嫉妬深くて独占欲が強いんだろうと思われる。
つまり、自らに取り込んでしまわないと気が狂うのだ~

だから、他作家さまの作品に心酔すると、その世界を描きたくなる。しかも、一旦取り込んでfateバージョンにしてしまう。

けいさんの作品は小さくまとまってなくて、日常という広大な世界を淡々と漂い流れているので、fateは恐らく取り込めなくて悶えるだろうな~
と、ちょっとドキドキ。

また、お邪魔させていただきます~

2011.11.07 Mon 14:31
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - Re: なんで、何に泣いたのか分からないけど、

fateさん、コメントありがとうございます。

ティッシュ2枚、まいどです。
王道行ってるんで、展開が予想通りなのではと思います。

みんながみんなを支えあって生きている。
誰かと関わらずにはいられない。
だから、生きてるって良いね、みたいな。
そんな感じですかね。

悶えてくださいね~
ではでは^^
2011.11.07 Mon 20:05
Edit | Reply |  

Name - LandM(才条 蓮)  

Title - No title

なかなかそういうのに世話になったりして、大きくなったりしますよね。そして自立をしていくんでしょうけど。私も結構色々な人に世話になって、自分の小説が続いていて、そして自分の小説がゲームになったりしていますからね。しみじみと教えてくれますね。
2011.12.23 Fri 08:26
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - LandM(才条 蓮)さん

コメントありがとうございます。

> なかなかそういうのに世話になったりして、大きくなったりしますよね。そして自立をしていくんでしょうけど。

そうですね。同感です。
自立していくためには周りとのかかわりが不可欠だと思います。

> 私も結構色々な人に世話になって、自分の小説が続いていて、そして自分の小説がゲームになったりしていますからね。しみじみと教えてくれますね。

小説がゲームに、というのが凄いですね。
一人の力とチームの力、なのでしょうか。
目の前にあるそこから本当にそのすばらしさをしみじみと教えてくれますよね。

小説がゲームに、って面白そうですね。
キャラに個性と魅力があって、お話がいろいろな方向にどんどん進むってことですかね。
ちょっと興味を持ちました^^
2011.12.23 Fri 11:49
Edit | Reply |  

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