オリジナル小説を綴っています。 拙いものですが、少しでもお話を楽しめる憩いの場になればと。

夢叶 28 第二章・ジャズライブ(4) 

 マスターは、照れたように三姉妹に向かって笑顔を見せ、テーブルから離れる。姉妹の様子は父親の変容に動揺しているようにも思えた。

 カウンターに下がったマスターを追うようにして、姉妹のうちの一人が急いでやってきた。父親の年齢をマスターに教えた、小顔でストレートのロングヘアの美しい女性だ。

「あの、マスター、気を使っていただいてありがとうございます」
「いや、そんなことないですよ。えっと、あなたは美穂さんですか?美紀さんですか?それとも・・・」

 マスターに軽く頭を下げたその女性は、はっとして答えた。

「私は美穂です。山下美穂と申します。長女です。それから、父の横にいる白いブラウスを着て髪を結んでいるのが、次女の美紀で、向かいのショートヘアでT-シャツを着ているのが、三女の美香です」

 女性は振り返って、テーブル席にいる姉妹を指差しながらマスターに紹介した。二人は父親の背中をさすったり、手を握ったりしながら、笑顔で父親にしきりに話しかけていた。

 こちらからは、何の話をしているのかは全く聞こえない。けれども、父親がどうやら二人からの話しかけに何か答えているようだ。次女の美紀が、父親の口元に耳を寄せて笑っているのが見える。

「私たちのために、ジャズ・ナイトをカレンダーに入れてくださって、ありがとうございます。祥吾さんにこんな素敵なライブをしていただいて、本当に感謝しています」

 客が田島のことを「祥吾」と名まえで呼ぶ時は、大抵『バンド甲子園』時代の田島のことを見て知っている。この女性と席にいる姉妹もそうなのであろう。そうと知って、このカフェに田島を見に来る客が大勢いる。

「今日は田島君、頑張ってますね。すごく練習したみたいですよ。お父さんは楽しんでいらっしゃいますか?」

 マスターは、さりげなく彼女の父親のことについて聞いてみた。

「父も喜んでいると思います。祥吾さんの演奏を最初からしっかりと見ているので。マスター、今日は父がいつもと違うんです。マスターからさっきおしぼりを受け取った時に少し笑ったんですけど、本当に久しぶりに父が笑うのを見ました」

 それを聞いてマスターは、それで姉妹があんなに驚いて自分のことを見上げたのかと納得した。

「父は、祥吾さんの話しの途中から涙を流し始めたんです。大学のお友だち、そちらのカウンターにいらっしゃる方ですか、あの方を紹介された時は声を漏らすほどに大泣きでした」

 無表情に見えた白髪の男性は、ただそう見えただけで、実際は田島の話を一言も漏らさずに聞いていたということか。田島が見せた正直な思いに何かを感じ、心を動かしたというのだろうか。まだマスターにはわかりかねていた。

「祥吾さんがお話になった瞬さんのことが、父の、母を亡くしたということと重なったのかもしれません」
「お母様は、いつ亡くなられたのですか?」

 母親がガンで亡くなったというのは、リクエストをもらった時のメッセージに書かれてあった。もう少し事情を聞いても良いだろうかと、マスターは遠慮しつつもたずねてみた。

「ちょうど3年前です。3年前の父の誕生日の次の日に亡くなりました。ガンが末期でしたが、父の誕生日ということで病院から許可をもらって自宅に戻っていました」

 外泊許可を得て、自宅に戻った母親を囲んで父親の誕生日会を楽しんだのが、最後の家族の団欒となってしまった、と美穂がマスターに淡々と語る。

 翌朝、母親の容体は急変し、病院に戻ることなく自宅でそのまま家族に看取られて息を引き取った。それ以来、父親にとっては自分の誕生日が、母親の死につながる悲しい思い出の日となってしまったのだという。

「父も母もスウィングが大好きでした。父がサックスを吹き、母がピアノを弾いて、よく二人で即興で合わせていました。まるで二人だけの会話をしているようでした」

 美穂はマスターに話しながら、思い出したように田島の演奏のほうに目を向けた。

「祥吾さんがスウィングを始めた時に、父が手を動かしたんです。そのときにグラスを倒しました」

 田島はそのスウィングからのノリで、最近のフリーのナンバーを連続で演奏していた。田島の立つコーナーの近くでは、席から立ち上がり、ダンスをする客も出るくらいに盛り上がっていた。

「見てください、お父さんが・・・」

 美穂はマスターの目配せに後ろを振り返った。カウンター前のそのテーブル席では姉妹の父親が、ゆらゆらと体を少し揺らしながら田島の演奏に指でトントンとテーブルを叩いてリズムを合わせている。

 マスターには、その指が田島の演奏するギターの旋律に合わせて、サックスのキーを押さえるような動きをしているようにも見えた。父親のその姿を見て美穂はマスターに再度頭を下げ、さっと席に戻っていった。



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 マスターの探り(?)がもうちょい続きます。
 そのくらい、聞かせてもらっても良いよね、お父さん・・・


 『夢叶』に、ご意見、ご感想、ご助言等いただけると嬉しいです。

 読んでいただき、ありがとうございます。皆様の一日が平和でありますように。

 Have a nice day!
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Comment

Name - 西幻響子  

Title - No title

お父さんの記憶と、田島君の話の何かが重なったみたいですね。
それは、瞬くんと、花園くんのこと・・・?

涙が出て、それから笑顔がでたということは、それだけ感情が動いたということ。それを知ったら、田島くんも喜びそう ^^

自分が話したこととか、表現したことが人に良い影響を与えられるのって、とても嬉しいことですね~
2011.10.25 Tue 14:28
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - 西幻響子さん

コメントありがとうございます。

何がどう重なったんでしょうね。。。
それは、言葉ではなくて感覚かな、この二人の場合は・・・?

誰かが誰かに影響されるのって、理屈ではないんですよね。

ただ日を当てるという、イソップ寓話の「北風と太陽」をちょい思い出してしまった。。。
2011.10.25 Tue 17:19
Edit | Reply |  

Name - lime  

Title - No title

この娘さんの話を、田島君にも聞かせてあげたいですね。
(まだ、ライブ中ですが)

田島君の話のどの部分かが、お父さんの心に響いたんですね。
その響きが、もっとお父さんの笑顔を引き出す鍵になってくれれば、
このステージはさらに意味のあるものになりますよね。

誰かに影響を与えられる人って、いいなあ~~。
私は常に受け身な人間だったので、人に何かを与えられる才能、人柄に憧れます。
きっと田島君は、与え、当たれられて、もっとビッグに成長していきますよね。
2011.10.25 Tue 20:57
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - limeさん

コメントありがとうございます。

娘さんの話は後でマスターから聞けるでしょう。
今はライブに集中の田島です。

田島の話しのどの部分が響いたのでしょうね。
お父さん、まだ変化は微妙です。

> 誰かに影響を与えられる人って、いいなあ~~。

良いですよね~

> 私は常に受け身な人間だったので、人に何かを与えられる才能、人柄に憧れます。

limeさんから私も色々と与えられていますよ。ご縁に感謝です^^

田島にはまだまだ弱い部分があるので(昔の曲を拒むとか)
もっと成長してもらわねば。

応援してあげてください。。。
2011.10.25 Tue 22:20
Edit | Reply |  

Name - ansheen  

Title - No title

こんにちは!
お父さん。。。なにか感じたのでしょうか?
田島君がリンクするんじゃなくて、私がいろいろリンクしそうです(苦笑)
2011.10.26 Wed 16:16
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - ansheenさん

こんにちは! コメントありがとうございます。

お父さんが何かを感じた、らしいのはわかるのですが、何を感じたのかが??

> 田島君がリンクするんじゃなくて、私がいろいろリンクしそうです(苦笑)

あはは、皆でリンクして繋がりましょう。
ここで出逢った事がすでにリンク^^
2011.10.26 Wed 18:45
Edit | Reply |  

Name - LandM  

Title - No title

う~~む。
これだけ人を惹きつけるものがあるのはうらやましい。
売れなくても、これだけ人を惹きつけるのなら、
仕事をしながら音楽活動ができそうですね。
それもまた才能。
(@_@;)
2016.04.09 Sat 18:00
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - LandMさん

コメントありがとうございます。

私も羨ましい(^^;)
人を惹きつける力のある人は、音楽でなくてもいろいろできますよね。
田島の場合はまだ今のところ、とにかく一生懸命、かな(?)
必死にやることで積み重ねていく田島です。
2016.04.09 Sat 19:58
Edit | Reply |  

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