オリジナル小説を綴っています。 拙いものですが、少しでもお話を楽しめる憩いの場になればと。

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夢叶 29 第二章・ジャズライブ(5) 

 今夜のジャズ・ナイトは田島が途中で語ったせいもあって、いつものライブよりも時間が長くなっていた。後半はMCもなく、ストレート・ジャズのノリの良い曲を続けて揃え、終盤を迎えていた。

「次の曲は美香さんから、お父様へのリクエストです。今日最後の曲です。お父様へこの曲が届くと嬉しいです」

 田島は最後のリクエストを、今日のライブの最後の曲として紹介した。それはアメリカン・スタンダードではなく、日本のヒットナンバーだった。

 その曲は、数年前、イケメン俳優のリョウが主演した話題の刑事アクションドラマのオープニングで、ジャズというジャンルを超えてランキングのナンバー・ワンになるほどに大ヒットしたものだ。

 田島がその曲を始めた途端に、姉妹のテーブル席にいた白髪の男性が立ち上がった。何かを探すようにきょろきょろと首を振り、席を離れようとする父親に姉妹は驚いて何とか父親をなだめて座らせた。

 再び席に着いたその男性は、もう指を動かしてリズムを取ることはしなくなった。その代わり、テーブルに左の肘を付き、少しだけ顔を傾けて手の上に顎を乗せると、眉間に皺を寄せて目を閉じてしまった。

 三姉妹が不安そうに父親を見つめる。マスターもカウンター越しから見守るだけで、何もしてやれそうになかった。

 ただ、目を閉じたその様子から、男性が田島の演奏を集中して聴いているのかもしれない、と良い方に想像するしかない。

 この曲のリクエストをした三女の美香が、気を取り直して手拍子を取り始めると、長女の美穂と次女の美紀もそれに続いて、田島の演奏の方に目を向けた。

 最後の曲を終えてもアンコールを求める手拍子が続き、田島はライブを終わらせることができなかった。

「アンコール、ありがとうございます。ジャズは今日やったのが全部で、手持ちがないんで、このジャズ・ナイトをするきっかけになった、リクエストの三曲をもう一度やりますね。リクエストありがとうございました」

「ふー」と一息入れて間を取ってから一曲目、美穂のリクエスト曲を出だしののアルペジオから静かに弾き始めた。ポロロンと心地よい弦の音が、再び店の中に響く。

 田島が弾いているのを見ると、簡単そうにやっているように見えるが、実はこの曲をやるのは見た目よりずっと難しい。

 初めてその譜面を見たとき、田島は仰天した。そこでまず、ジャズという音楽ジャンルの洗礼を受けたのだった。恐らくこの曲を一番練習しただろう。

 一曲目が終わり、テンポが変わった。田島は間を入れず、二曲目の美紀からのリクエスト曲を始めた。

 その二曲目が始まった時、それまで目を閉じてじっとしていた姉妹の父親がぱっと目を開き、頭をまっすぐに上げた。その瞳が何かを探すように忙しく動く。

 隣にいた次女の美紀が父親の肩に手を置き、自分と三女の席の間に置いてあった小型で長方形のスーツケースのようなものを指差すと、父親は小さく微笑んで頷いた。

 美紀は席を立ち、自分の座っていた椅子の上にそのケースを置いて蓋を開けた。中には、年季の入ったアルト・サックスが渋い金色の光を湛え、納まっていた。

 父親は、そのサックスの入ったケースにゆっくりと手を伸ばすと、右手で金色に磨かれた本体を取り出し、左手でマウスピースをつけた。

 内ポケットに入っていた皮製のストラップを取り出すと、じっとそれを見つめてからフックにつなげ、首にかけた。

 椅子に腰掛けたままサックスを抱え、演奏の準備をするようにパタパタと軽くキーを何度か押さえる。そして、納得したような表情を見せると、席から立ち上がった。

「あっ!」

 カウンターから様子を見ていたマスターも小さく声を上げた。サックスを抱えた男性が、足早に田島のいるコーナーに向かって行ったからだ。

 男性のその動きは、姉妹の誰もが引き止めることができないほどに機敏で、
今日最初にカフェに入ってきた時の、歩みのゆっくりとした、表情のなかった人物とは別人のようだった。

 男性は、田島の横にすべるようにして入るのと同時に、抱えていたサックスを高らかに吹き始めた。それは美紀からのリクエスト二曲目のセカンド・コーラスに入るところだった。

 田島も客も、突然入ってきたこの人物とサックスの音響に、何が起きたのかと目を丸くした。田島は一瞬演奏が乱れたけれども、サックスの勢いに助けられてすぐに持ち直した。

 このサックスを抱えた白髪の男性が、つい先ほどまで向こうのテーブル席に座っていた三姉妹の父親だという事はすぐに分かった。

 けれども、ライブに集中していた田島は、マスターが見ていたような父親の変化については何も知らない。田島にとってこの男性は、何の感情も見せずに、ただおとなしく席に座っているだけの人物だった。

 突然ライブに加わったこの男性は、曲の途中から入ったというのに、違和感なく抱えたサックスを見事に演奏して合わせている。明らかに素人ではなかった。



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Comment

Name - 秋沙   

Title - No title

うあぁぁぁぁぁすごい展開に!
まさかお父さんがサックスで乱入(?)とは!
しかも「世界のヤマサダ」!?(^^;)

あぁすごいなぁ音楽って。
やっぱりこういうのを見ると(読むと?)、ジャズを勉強すればよかったなぁって思います。
ジャズは「アドリブ」ができるから、こうやって即興で合わせることができるんですよねぇ。あたしにはできない(ToT)

このお父さんの変化が、田島に何を与えるのかな。
楽しみです。
2011.10.31 Mon 14:08
Edit | Reply |  

Name - 西幻響子  

Title - No title

おおぉっ!凄い展開に!

というか、このライヴ、生で聴きたい!観たい!
怒涛のような盛り上がりをみせているようですもんねぇ、このライヴ。ちょーかっこいいです。これでピアノとドラムとベースが入ったら完ぺき…!ジャズってとても奥行きのある音で、ロックなどとは違うかっこよさがありますね。そのかっこよさを、このシーンでリアルに感じました。

あのお父さん、そんな有名人だったんですねー。これでプロに復活できるといいんですが。
2011.10.31 Mon 16:16
Edit | Reply |  

Name - lime  

Title - No title

あのお父さん、そんな大物だったんですね。
この場の臨場感と、観客やマスター、田島の興奮が伝わってきますねぇ。
かっこいいなあ。

しかし、そんな大物が、あんなにも今まで打ちひしがれてたのがもったいなかったですね。
本来の姿に戻るのには、やはり音楽。ジャズだったんですね。
田島、グッジョブ。

そして三宅さんって、強引な人・笑
2011.10.31 Mon 17:16
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - 秋沙さん

コメントありがとうございます。

お父さんのサックスで乱入編です(笑)

音楽、良いですよね~。私はライブ派なんです。
やっぱり生の空気が良いです。

秋沙さんのライブにも是非呼んでいただきたい。
手拍子が得意です・・・(汗)

田島と「世界のヤマサダ」のライブに、もうちょいお付き合いくださいませ^^
2011.10.31 Mon 18:27
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - 西幻響子さん

コメントありがとうございます。

私も! 生で聴きたい! 観たい! 盛り上がってます。 
まだもうちょい盛り上がりを見せます。(ちょい予告)

ジャズって、派手なパフォーマンスよりも、演奏で魅せるので、
力がないとできないですよね。
でも、ロックも好きです。首振るやつとか(へへへ)

お父さんにはめっちゃ有名人になってもらいました^^
これをきっかけに・・・
2011.10.31 Mon 18:58
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - limeさん

コメントありがとうございます。

ライブの雰囲気が少しでも伝わったでしょうか。

お父さんにも音が伝わったようで、本来の姿に戻りつつあるようです(?)
田島にはお父さんと一緒にもう少しジョブしてもらいます^^

そしてちょい強引な三宅さん・・・に気づいてくださってありがとうございます。
引き続き、実況・解説員してもらいます(笑)
2011.10.31 Mon 19:13
Edit | Reply |  

Name - ansheen  

Title - No title

ヤマサダ!
音楽は音楽同士で通づるものがあるのでしょうか!
2011.11.01 Tue 08:47
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - ansheenさん

コメントありがとうございます。

ansheenさん!(笑)
音楽の響きで通じつながるのと、
お料理の香りで通じつながるのと、
何か共通点があるような。。。

通づるものって、感覚で、理屈ではないんだと思うのです^^
2011.11.01 Tue 10:14
Edit | Reply |  

Name - fate  

Title - 感動的です!!!

なんか、その場に偶然居合わせた観客気分です!
得した感じ!
音楽が聴こえてきそうです!
でも、実はfateはジャズだけはダメなんです~(^^;

だけど、一気に何かがつながって、世界が開けて、目の前に道が通った気がしました。
良かった、の一言!

2011.11.08 Tue 20:46
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - Re: 感動的です!!!

fateさん、コメントありがとうございます。

今日のライブに来られたfateさん、めっちゃラッキーですよ(笑)
得していってください^^

はい。ここでつながって、一気に目の前の道をどぉっと行きます。

ライブを最後まで楽しんでくださいね^^
2011.11.08 Tue 21:59
Edit | Reply |  

Name - LandM  

Title - No title

夢ってどっかに置き忘れていたりするんですよね。普段の仕事だったり、なんだったりして。生活だったりそういうのだったり。それで結局、そのまま好きなことができない・・・っていうのを感じますね。同時にその忘れていたものを取り戻そうとする努力がにじみ出ている作品だなあ・・・って常々思います。

2012.02.05 Sun 10:04
Edit | Reply |  

Name - けい  

Title - LandMさん

コメントありがとうございます。

そうですね。毎日忙しいと、忘れちゃうことがたくさんあるんですよね。
でも、やっぱり、好きなことをやりたいっていう気持ちを忘れないで、それが出来るように、と思います。

にじみ出ていますか(^^;) ありがとうございます^^
2012.02.05 Sun 11:51
Edit | Reply |  

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